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無憂草王国 訪問記

赤塚 靖

1 プロローグ
「ねえ?結婚5年目に何処か外国に連れていってくれる約束だったよね?」4月の中頃に半ば脅迫めいた?女房の言葉が今回の旅行の始まりでした。「じゃあ、何処か捜してこいよ。」捜してきたのはハワイとシンガポール。実はハワイは一昨年に行っていたので却下!シンガポールは昨年JCPS主宰の田辺氏達が行ってきて、そのビデオがきっかけで元来ドロセラ好きな私がネペンの魅力にはまりかけてた所ですから、私が「5月に行く!」と即決した気持ちは皆様分かっていただけますかね? 自慢じゃあないが、ネペンの知識は名前を知っててもイマイチ形が分からない。交配種になったらもうお手上げ!「そんなやつが自生地行くなんて贅沢だ!」って声が聞こえてきそうですが、そんな私がネペン(無憂草)の国に行く事になりましたがどうなる事やら

2 王国までの道案内
さて、シンガポールへ行ける事になりましたが、じゃあいったい何処に王国(自生地)があるのか皆目見当がつきません。結局田辺氏に頼る事に、しかし、「いやあ、私も不案内で...。」連れていってもらったので場所は分かっても行き方が分からないとの事。じゃあ、案内をシンガポール在住のJoseph氏にお願いする事になりました。
今回の私の日程は5月1〜5日まで、その内フリーは2日と4日。結局、仕事の忙しい合間を縫って、4日の午前中2時間ほど時間を取っていただける事になりました。 時に今回連絡を取ったのは電子メールを使いました。手紙感覚で書いて、早く簡単に送れるんですよ。ホントに今回は重宝しました。もし、パソコン通信に不安、迷いを感じておられる方がいらっしゃるのなら、私は是非にお勧めしたい。 なにはともあれ後は行くだけ。早速予備知識にネペンの本と英会話を勉強し出したのはいうまでも有りません。

3 王国の周辺
さていよいよ出発の日である。私と女房。そして3歳になる息子の3人で名古屋空港からJAL715便で一路シンガポールへ、約6時間の空の旅となった。時差はマイナス一時間。飛行機の中は快適で息子は「気持ちがいいね〜」を連発している。今年のゴールデンウィークは人が少ないって聞いていたが、確かに飛行機の中は空席が目立ち、椅子を3つ占領して寝転がっても問題なし!そして、映画を見て、飲み食いしているうちに現地時間3:25。予定通りに到着する。
チャンギ空港から一歩でるとそこは熱帯。「蒸し暑い!」無理も無い。あと180キロ南下するとそこは赤道。女房はまいっていたが、「ここはネペンの国」と思うとこの暑さも不思議に気にならない。人間気の持ちようでなんとかなるってのは本当だった様だ。
1〜2日目はセントーサ島で過ごす事に...。空港から島へ向かう道すがら茂みが有るとついついネペンを捜してしまうのは性というものだろうか?勿論、見つかる訳もなくホテルへ...。セントーサ島は観光中心の島で、昆虫博物館や水族館などがあり、島の周囲をモノレール(乗車賃は無償!島の入場料に含まれている)が巡回し、それらの施設をつないでいる。しかし、ここは何故か日本人が少ない。また、大層のんびり出来る所である。2日目はフリータイムでのんびりするつもりだったので、朝おきて朝食をレストランのテラスでとり、コーヒーを飲みながら景色を見る。日差しが柔らかくサンサンと降り注ぎ、名も知らぬ小鳥たちが遊ぶ...。時間がゆっくり流れるように感じられ、日頃の喧燥が嘘の様...。まるで、自分が溶けてなくなってしまう様な錯覚さえ覚える国。それがシンガポールである。昼間子供を連れて何する訳でもなし、のんびり歩き、セミの声に耳を傾け、蝶と戯れる。これほどまでにゆったりとした気分になった時を覚えていない。正にネペン(無憂−憂いの無い)の国である。もし、シンガポールを訪れる機会があれば、一度足を向けて頂きたい場所である。 閑話休題。ここセントーサに食虫植物が無いか捜してみたが見つかりませんでした。蘭の花はお国柄で所狭しと咲き誇っており、先ほど、申し上げた昆虫博物館も捜してみたが食虫植物はここでも残念ながら見つかりませんでしたが、ここ昆虫博物館は、昆虫好きな人にとってはまさに楽園であろう。シンガポールはもとより、世界中の変わった虫の標本があり、庭には蝶が放し飼いにされていて、また、シンガポール産の大きなサソリ、ムカデ、ヤスデが生きたまま飼われ、優しく?私たちを出迎えてくれる。彼らは私の4日の自生地探検の「やる気」を削ぐには充分な風体をしており、いささか閉口したが、「うん!皆が行って何も言ってなかったし、大丈夫さ!」ちょっと弱気の自分を慰めるようにつぶやいて、昆虫館を後にした。
結局ここセントーサでは食虫植物達を見つける事ができなかった。やはり、雑草の一つとして考えられてるのだろうか?日本でも敢えて雑草を展示する事はない。そんな事を考えながらセントーサを後にした。
次は3日目。ツアーで市内観光。植物園がルートに入っているのでひょっとして...淡い期待を抱いて、バスに乗る。市内はセントーサ島とは全く対照的でいささか驚く。立ち並ぶビル群。うごめく人と車。ここシンガポールは多民族国家である。そのせいか以前訪れた中国で感じた独特なエネルギーを感じる。ヨーロッパに行った時には感じられないし、日本でも感じられない。「まあ、たまにはこんなエネルギーに揉まれるのも悪くない...。」私を乗せたバスは次々と名所とお土産店を訪れる。また、話がずれて恐縮なのだが、海の近くのマーライオン(獅子頭魚尾の魔物)公園でひょいと河の中を覗くと、20cmはあろうかという鉄砲魚(アーチャーフィッシュ)がいるではないか。日本で売っているのは5〜7cmぐらいだがこんなに大きくなるとは知らなかった。現地の物は凄い!これはネペンが楽しみだ!しかし、本当に会えるのだろうか?
結局植物園でも蘭一色で、会う事は出来なかった。ガイドの話によると、別の植物園にはあるが、日本人は蘭が好きだから行かないとのことだった。夜はナイトサファリへ行き、貴重な動物達にいっぱい会う事が出来た。いよいよ明日は、自生地。上手くJOSEPH氏と会えるだろうか?若干の心配を胸に遊び疲れた息子をそばに床に就く。

4.王国での宴
いよいよ待ちに待った日である。女房と息子は「マレーシア、ジョーホール観光」に行く事とした。サソリや蚊に遭遇させるのも気の毒だからである。
8:30。宿泊したホテルよりタクシーで彼の家へ。15分で彼の家に着く。この国はタクシー料金も安い。日本円で800円程度。日本の半分ぐらいである。彼の家は高級住宅街。コンドミニアムである。彼の家はすぐ分かった。ベランダに所狭しと並んだネペンがみえるからである。彼はベランダから私の来るのを待っていてくれた。
「シンガポールへようこそ!」私も付け焼き刃の英語で答える。早速彼のコレクションを拝見する。親株の写真と一緒に説明してくれる。苗もそうだが親株の素晴らしさに言葉が出ない。また、私はampullariaが好きだと言ってあったので、栽培品のampoullariaも見せていただく。小ぶりで可愛い袋が付いている。しかし、こうしてベランダで我々がモウセンゴケを育てるような感覚でネペンが出来るのはある意味羨ましい。そうそう彼は腰水の代わりにハイドロカルチャーで使う丸い茶色い球に水を含ませてやっていた。腰水は嫌うが湿度は欲しい植物にはいいかもしれない。
「昼から仕事なんだ!自生地へ行こう!」何時までも見ていたい気もするが、そうも言ってられない。彼の車で自生地に向かう。はやる気持ちと彼との意志の疎通を図るために私の乏しい英語の単語を並べる作業をするべく、私の頭脳はやや興奮状態である。昨年の越川、田辺両氏がどうしたの、と盛んに名前を連呼するし、私は即席英語で怪しい会話をするし、車内は大変である。それでも話が続いたのだから不思議である。田辺氏が以前書いていたように、彼の英語が聞き取りやすかったのと、簡単な単語で話を進めてくれたからであろう。 10分も走ったろうか?郊外に出かけた所で車を停めた。「ここだ。」道端に猿がいる。土手を下りると見覚えがある風景。そう、田辺氏のビデオで見た「送水管」の所である。シンガポールはマレーシアからこの巨大な送水管によって、飲料水などをまかなっている。ここにはanpullaria,gracillis,rafflesianaが見られるとのこと。300メートルほど歩いたろうか?足元には先ほどからオジギソウが群生してる。右手が薮になり、真っ先に迎えてくれたのは、gracillisだ。10cmは優に超えている。「How do you do?」袋に手を伸ばし、握手をする。「ようやく会えたね?」歩くたびに株数が増え、大きさも大きくなる。ふと見るとgracilisの袋で、今にも蓋が開きそうなのがあるではないか!衝動的に袋を握っていた。「ポフッ!」小気味良い音がして蓋が開いた。実は前述のビデオの中で、いえきち女史が大きな袋を握って「ポフッ」とやってたのを見て、大層羨ましく思い、いつか機会があればやってみようと密かに狙っていたのだ!こんなにも早く実現するとは...。感無量である。彼には妙な日本人と写ったかもしれない。今回は大きな袋ではなかったが、それでも出来て嬉しい。これだけでも来た甲斐があるってもんだ。
目が慣れてくるとあるある。薮に隠れて恥ずかしそうなrafflesiana。木に絡まり見事なまでに成長したgracillis。gracillisは地味だ。見栄えがしないと思っていたが、これ程のものを見たら、そんな思いは完全に吹っ飛ぶ。日本であれほどまでに練習した「Here in HEVEN」も出ないほどの感動である。rafflesianaも凄い。下位袋も上位袋もその大きさは尋常じゃあない。いずれも今流行の500ccのペットボトル位はあろう。薮の中に入って捜すとそんなのがボンボン出て来る。Joseph氏はごそごそ何かしてると思ったらちrafflesianaの雄花と雌花をそれぞれ見つけてくれた。「Boy」「Garl」と説明してくれたのが印象的だった。雌花は子房が膨らみ種が出来つつあった。話によると収穫時期は後2ヶ月後とのこと。後はampullariaだが真打?は最後らしい。 水溜りを見つけるとミミカキグサがあるとのことで二人で目を皿の様にして捜すが、まだ発芽していないらしい。
そうこうするうちに送水管の所に降りていったので後をついていくと、足元を指差すので見ると実生苗がいっぱい生えている。gracillis、お目当てのampuralliaもある。3cm位の袋が付いている。株の直径は5〜8cmくらいだろうか?結構水浸しである。とはいえ、Droseraの生えるような湿地のように足が埋まる事は無い。地面はどちらかというと砂っぽい。程々に写真を撮ると、可愛いちびっこ達に別れを告げて帰路へつく。
先ほどgracilisの大株を通り過ぎて薮の所に来るとしきりに薮を気にしている。どうやら入りたいのだが、伐採した枝がうずたかく積んであるので中に入れないのだ。でも結局半ばむりやり入れる所を見つけて入り込む。薮の中は完全に日陰である。しかしある。落ち葉に埋もれて出てきたのはampuraliaである。「いいねえ!」そういうと彼は首を振る。彼曰く。「大きいのはソフトボール位になるよ」一体どんな大きさだ?理解出来ない。彼が続いて木の枝で落ち葉を払うと白い袋を持つ ampuraliaが現れた。「おおっ!新種か?」一瞬歓喜が走ったが、ただの日照不足。写真を撮るため邪魔な落ち葉を手で払おうとするとすると、Joseph氏が慌てて私の手を押さえて止めた。「サソリがいる。」セントーサ島で見たあれか!〜皆さんにも注意する。熱帯の薮の中では必ず「木の枝」で物を触るようにして頂きたい。もっともその木の枝を取る時も枝に潜む毒ヘビにも注意していただきたい。〜あの毒々しさが記憶に蘇える。写真を撮り終えて薮から出て車に戻る。「今度は8月にいらっしゃい。ジョーホールは凄い。ネペンが一杯だよ。すごいよ!」道々彼が話してくれる。本当に機会が有れば再度ネペンの王国に来てみたい。本当に短い時間だったが、訪れることが出来て本当によかった。本当に生えている物に触り、同じ環境を体験する。大袈裟かもしれないが、王国から遠く離れた日本に住んでる私にとってはもう2度と無い機会だったかもしれない。そう考えるといつまでもここに居たいんだが...、そうも行かない。
王国に訪れて気がついた事がある。ここは熱帯というから日差しがきつくて、ムシムシする物だと思っていた。しかし、確かに暑いし、湿度が高い。けれど、日差しはきつくない。むしろ、日本の日差しが強くて、刺すようである。夏に遮光するというのはホントに正解なのである。日本の日差しは彼らにとってはきつすぎるのである。我が家にも最近手に入れたネペンが3鉢ほど有るが、ここで得たことをもとに育てていきたい。
Joseph氏とは大通りまで連れていってもらっていって、タクシーを拾ってもらい別れる。なごりは尽きないが、彼にも仕事が有るし、私にも妻子が待っている。固い握手をして別れ、一路ホテルへ...。「Josephさん。ありがとう。」

5.エピローグ
オーチャード通りを歩いて買い物をする。周りは高島屋やそごう。伊勢丹もある。伊勢丹があると新宿を思い出す。屋上に安藤さんが笑って迎えてくれるような気になる。王国での静けさが嘘のようである。本当に王国へ行ったんだろうか?街の喧騒を感じてふとそんな気になる。「また来れたらいいね?」女房が夢見気分で言う。「そうだね...。また来ようよ。」息子は私の腕の中で寝息を立てている。さらばシンガポール。ネペン王国。明日は日本だ...。
この場を借りて忙しいのに時間を割いていただいたJoseph Yeo氏。数時間とは言え我がままを聞いてくれた妻と息子に感謝の意を表したい。


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